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パリからの手紙

letter.021
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パリのアパルトマン
パリが女性に限らず、世界中の人のあこがれの街であることは今も昔も変わりません。「パリに住むこと自体がアートなのよ」とは、私が最近知り合ったパリマダムの名言ですが、山手線の内側ほどの大きさの都市に、歴史、伝統、学問、芸術、最先端のクリエーションが密集し、そこに普通に生活している人々がいる。代々敷地を受け継いでいる名家から移民まで、貧富も国籍もミックスしたコスモポリタンな街であるのに、パリという枠からはみ出ることのできない、共通性があるように思います。同じ都会でも一旗揚げようと言う人はNYへ、パリは吸い寄せられてきた人たちが集まる街とでも言いましょうか…。
実は最近、某雑誌の取材で、30〜50才のマダム達20人にインタビューをしてきたのですが、ついでにお宅拝見の機会を得て、びっくり!本当にパリの建物は外からでは分かりません。そこで少しパリの住まいについて触れたいと思います。よく言われるアパルトマンとは7階建てくらいのいわゆるアパートで、ワンルームしかない場合はStudio(ステュディオ)と呼びます。同じ建物でも、昔女中を住まわせた屋根裏はChambre de bonne(シャンブルドゥボンヌ)といって、狭い部屋で、場合によってはシャワーやトイレが共同なところもあります。現在は住み込みの女中を置く家は少ないですから、学生や出稼ぎ労働者が多く借りています。簡素な作りなので、夏は暑く冬は寒いけれど、最上階ですから実は景色がとても良かったり、女中を住まわせていた高級地区に多いので、環境がよかったり、と侮れません。
1軒家はメゾンといいますが、手頃なものは市内に少なく、かつて貴族の屋敷だったような豪邸をHôtel particulie(オテルパルティキュリエ)と呼び、そちらはたくさん残っています。個人で住まいとしている人もいるでしょうけれど、多くは社交施設や美術館、ホテルなどに変貌を遂げ、こういう所がお洒落なパリの姿を色濃く残してると言えます。パリは街の美しさを保つために、古い建物を改装するときは、外壁を残したまま内側だけに手を加えます。時間がかかり、作業費用は2倍になりますが、結果外からは想像できないモダンで意外な世界が拡がっているケースが少なくないのです。居住者だけが楽しめる中庭がある所も多く、パリの道を歩いているだけではわからない、美しい裏のパリ…。
さて、パリで一番古い建物が残っているといえばサンルイ島。以前20人ほどしか入れないプライヴェートコンサートに招待され入った18世紀の建物は、国から保存指定されたもので、撮影はもちろん、着席するまでに通る廊下の壁(布製)やドアの取っ手などに一切触れてはいけませんでした。そういう特別な場所にいると「時」について考えることができます。大昔にここに居た人は、今の私と同じような音の響きを聴いたのでしょうか。
ショッピングが楽しいマレ地区にも1800年代の建物がたくさん残っています。地盤沈下で傾いた建物もあるのですが、せめてベッドは水平にしたいものです。
パリには豪華なホテルがたくさんあります。クリヨンは年期が入りすぎた感がありますが、すでに改装中。防水シートで覆われていますが、そのシートには建物の実物大写真が印刷されていて、遠目からは工事中に見えません。改装したムーリス、コストなど、施設もサービスも最高級です。その中でもリッツは別格で、映画「男と女」の冒頭シーンに出てくるヴァンドーム広場にあるというだけでもわくわくさせるものがありますが、訪れる人の心に「パリに居る」とか「歴史を共有する」など何か快適さ以上の素敵な印象を心に残してくれるものがあるように思います。近々改装されるので、リッツからその歴史感がなくならないことを願うばかりです。
それらの豪華なホテルの上には、さらにパレス=宮殿があります。エリゼ宮、ルーブル宮、シャイヨ宮などにはもちろん泊まれませんが、今フランス各地でパレス級のホテルが密かな人気です。残念ながら私も行ったことがないのですが、そんな機会がありましたら取材して、皆様にご紹介したいと思います。
2011年も終りに近づきました。大変な年でしたが、私も以前人生でもがき苦しんでいた時期に、あるパリマダムに「なにはともあれ、あなたの人生はintéressante(英:インタレスティング)」と言われて勇気づけられたことがあります。退屈して生きるより、ずっと意味のある人生とでも言いましょうか。どう生きても色々大変なのが人生なのですから、それなら思い切り人生と向い合ってはどうか、そんな風に私は思っています。 2012年が皆様にとって美しく、Intéressanteな年になりますよう、お祈り申し上げます。 Joyeux Noël !

木野 真美 Mami Kino

1971年生まれ。ピアニスト。モーツァルトコンクール、日本室内楽コンクール、東京都知事賞受賞。
1994年渡仏。パリ16区在住。現在、パリの音楽学校でピアノを教える傍ら、ヨーロッパの音楽祭や古城でのディナーコンサート等演奏活動を行っている。音楽活動の他に、翻訳や日仏交流イヴェント等にも携わる。プライベートでは、日本人の夫との間に息子がひとりいる。

CDリリース:日本人作曲家シリーズCD『伊福部昭』、『貴志康一』、子守歌集『ララバイ オゥ ララバイ!』
公式サイト:http://www.mamikino.com/
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